企業に求められる「働き方改革」とは?法改正ポイントや取組事例を紹介!
「働き方改革という言葉は知っているが、そもそも内容が分からない。」
「働き方改革を推進する上で、効果的な方法があれば知りたい。」
企業で働き方改革を実施するにあたり、上記のようなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか。
本記事では、働き方改革が必要とされる理由や、「働き方改革関連法」の改正内容、働き方改革の具体的な取組事例などについて解説します。
働き方改革について理解を深めたい方、働き方改革を積極的に推進したい企業のご担当者は、ぜひ参考にしてください。
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働き方改革とは
働き方改革とは、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方を実現するための施策のことを指します。
具体的には、少子高齢化や働き方に対するニーズの変化など、現代の日本が直面する社会的課題に対処するために必要とされる政策や企業の取り組みのことで、2019年に「働き方改革関連法」が施行されました。
厚生労働省では、働き方改革を以下のように定義付けています。
働き方改革とは、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革のことです。
<参照>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
働き方改革の推進により、従業員一人ひとりが健康で働きやすい環境を提供し、社会全体の生産性を上げることを目指しています。
また働き方改革は大企業だけが対象ではなく、雇用の7割を占めている中小企業や小規模事業者においても、積極的に実施を進める必要があります。
詳しくは、厚生労働省の「働き方改革特設サイト」をご確認ください。
働き方改革が必要とされる背景
現代社会において、働き方改革が必要とされる理由は主に2点あります。
生産年齢人口減少による労働力不足
1つ目は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少による労働力不足問題です。
生産年齢人口とは、生産活動の中心にいる人口層のことを指し、15~64歳までの人口が該当します。
日本の生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに減少を続けており、2050年には5,275万人まで減少すると見込まれています。(下記図参照)
<参照>内閣府/令和6年版 高齢社会白書
このまま生産年齢人口が減少し続けると、生産性の低下が懸念されるため、労働力の確保が何より重要となります。
そのため、働き方改革による生産性の向上が重要視されるようになりました。
働き方の多様化
2つ目は、従業員の働き方に対する考えやニーズの多様化です。
現代の日本では、テレワークやフレックスタイム制度の普及により、多様な働き方が徐々に浸透しつつあります。これらの普及が、例えば女性管理職の積極的登用や男性の家事・育児への参画の拡大を促すなど、性別に関係なく仕事と家庭のバランスを取りながら、多様な働き方ができる社会の実現がより求められるようになりました。
実はテレワークやフレックスタイム制度などは以前からも国が推奨していました。
しかし、総務省発表の「令和5年 情報通信に関する現状報告の概要」によると、民間企業のテレワークの導入率は2019年では約20%と、決して普及しているとは言えない状況でした。
それが2020年の新型コロナウイルス感染症拡大後、急速に導入が加速するようになり、2022年時点のテレワーク導入率は51.7%と、半数以上の民間企業でテレワークの導入が進んでいることが分かります。
このように、従業員一人ひとりが生活環境やライフスタイルに合わせて、多様かつ柔軟な働き方を選択できる社会の実現が求められるようになりました。
働き方改革関連法とは
働き方改革関連法の施行
働き方改革関連法は、働き方の選択ができる社会の実現と働き方改革を総合的に推進する法律のことで、正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」です。
大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月に施行されました。以降も、働き方改革の実現のために、法改正が進められています。
働き方改革関連法の法改正
働き方改革の実現のために、これまで様々な法改正が行われてきました。改正された方内容について詳しく解説します。
時間外労働の上限設定
<引用>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
施行:大企業2019年4月1日、中小企業2020年4月1日
・時間外労働の上限を原則月45時間、年360時間以内とする。
・臨時的な特別な事情がなければ上限を超えてはならない。
・臨時的な特別な事情があり、労使合意がある場合でも、「年720時間以内」、「複数月平均80時間以内(休日労働含む)」「月100時間未満(休日労働含む)」などの条件を守らなければならない。
<参照>厚生労働省/時間外労働の上限規制
年次有給休暇の取得義務化
施行:2019年4月1日
・年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、使用者(企業)は年5日の年次有給休暇を確実に取得させることが必要となる。
▼有給休暇制度について詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
中小企業の時間外労働に対する割増賃金率引き上げ
施行:中小企業2023年4月1日
・中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を50%に引き上げる。
・時間外労働に対する割増賃金率は、一定の範囲を超える時間外労働に対して高い割増賃金率で計算する割増賃金の支払いを規定したもの
・通常は25%の割増賃金率について、月60時間超の部分には50%とする
参考までに、中小企業の定義は以下の通りです。
<引用>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
「フレックスタイム制」の拡充
施行:2019年4月1日
より働きやすさを重視するため、「フレックスタイム制」の労働時間の調整可能期間(清算期間)を3ヵ月まで延長できる。
<引用>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
「高度プロフェッショナル制度」の創設
施行:2019年4月1日
・「高度プロフェッショナル制度」とは、職務の範囲が明確で、一定の年収要件を満たす労働者が、高度の専門知識を要する業務に従事している場合に、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外する仕組みである。
・ただし、労使委員会決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康確保措置が義務付けられています。
産業医・産業保健機能の強化
施行:2019年4月1日
・産業医の活動環境を整備する。
・労働者の健康管理等に必要な情報を産業医へ提供する。
<引用>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
「勤務間インターバル制度」の導入促進
施行:2019年4月1日
・1日の終業時刻から次の始業時刻までの間、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保させることを努力義務化する。
正社員と非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止
施行:大企業・派遣会社2020年4月1日、中小企業2021年4月1日
・同一企業内で、雇用形態による労働者間の、基本給や賞与などの待遇について不合理な格差を設けることを禁止する。
<引用>厚生労働省/ 「働き方改革関連法に関するハンドブック(時間外労働の上限規制等について)」
働き方改革を通じて得られるメリット
ここでは、企業が働き方改革を推進することで得られるメリットを、企業側と従業員側に分けてそれぞれ解説していきます。
企業側のメリット
企業側のメリットは主に以下の2点です。
生産性の向上
働き方改革によって例えば長時間労働が是正され、従業員が適切に働ける環境が整うと、従業員のモチベーションや帰属意識が高まり、生産性の向上が期待できます。
限られた時間の中で効率的に業務を進めることで、チーム全体のパフォーマンスも向上し、結果的に企業の業績向上にも大きく寄与します。
企業イメージの向上
働き方改革を積極的に推進する企業は、社会的にも高い評価を受けるようになり、企業のイメージアップにも大きく貢献します。
また採用活動においても、求職者に「従業員を大切にしている企業」だとPRすることができ、優秀な人材確保も期待できます。
従業員側のメリット
従業員側のメリットは主に以下の2点です。
従業員満足度の向上
テレワークやフレックス制度など柔軟な制度を取り入れ、働きやすい環境を整えることで、従業員それぞれのライフスタイルに合った働き方の実現が可能になります。
例えば、テレワークの導入によって、通勤時間が軽減され、その分の時間を有効に活用することができると、仕事とプライベートの両立にもつながります。
フレックスタイム制度を導入すると、子育てや介護など従業員はそれぞれの家庭の事情に合わせて働くことが可能になります。
ワークライフバランスの実現
働き方改革によって、労働時間の短縮や柔軟な働き方ができるようになると、プライベートに使える時間が増え、ワークライフバランスを整えることができます。
仕事とプライベートを両立しながら、家庭や趣味の時間が充分に確保できると、ストレス軽減や生活の質の向上も期待できるため、働き方改革を積極的に推進する企業が増えてきています。
働き方改革をスムーズに進める方法
実際に働き方改革を進めるにあたって、具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか。ここでは、社内で働き方改革を円滑に進めるための流れをご紹介します。
現状把握と問題点の洗い出し
まずは社内の現状を把握し、問題点を分析することが重要です。
例えば、従業員アンケートや面談などを通じて、社内での実態や具体的な問題点を洗い出します。従業員の勤怠データなどから残業状況を確認するのも1つの方法です。
働き方改革を実践するにあたって、まずは自社で起こっている現状や現場の声を把握することから始め、次に何が課題で、何から取り組むべきかを明確に定めることも必要です。
また、他企業の成功事例などを参考にすることで、自社に合った施策や取組目的のヒントが見つかるかもしれません。
目標設定と具体的な方針策定
課題の洗い出しができたら、次に具体的な目標と方針を策定します。
働き方改革の推進に際して、短期的、中期的、長期的とフェーズに沿った目標を明確にし、それぞれの段階で必要な施策を決めていきます。
例えば、短期的な目標としてフレックスタイム制度の導入、中期的にはテレワークの拡充、長期的には従業員のキャリア制度の見直しなどが考えられます。
自社で定めた目標を達成するためには、具体的なアクションプランを策定し、実行することが重要になってきます。
例えば、フレックスタイム制度を導入する際には、どのようなルールで運用するか、導入にはどのような手続きや申請が必要かなど、綿密に計画を立てる必要があります。
施策の実行と分析
具体的な目標と施策が決まったら、実際に施策を実行しましょう。
ここで重要なのは、定期的に進捗状況を分析し、必要に応じて施策を見直したり、改善が必要であることを認識しておくことです。
導入して終わりではなく、従業員のフィードバックを積極的に取り入れながら、適切な改善策を講じることで、働き方改革の効果を最大限に引き出すことができます。
分析の際には定量的な指標だけでなく、定性的な指標も取り入れることをおすすめします。
例えば、各施策を導入した後に従業員の満足度調査や生産性評価などを通じて、働き方改革の浸透進捗を多角的に評価するなどの方法です。
改善策の見直し
各施策導入後は、働き方改革の効果や成果を確認し、更なる改善点を見つけて次のステップに進みます。このようにPDCAを回すことで、働き方改革の持続的な維持が可能となります。
例えば、フレックスタイム制度の導入後には、実際にどれくらいの従業員が利用しているか、内容に不満はないかなどを定期的に確認し、必要に応じてルールや運用方法を見直します。
こういった働きかけを行うことで、制度が形骸化することなく、企業にとっても従業員にとっても最善の効果を生み出すことができるでしょう。
働き方改革の具体的な施策例
働き方改革は、現代社会において働く人々の生活と労働環境を改善し、ワークライフバランスを実現することを目的としています。
そこで、企業が働き方改革を推進するにあたり、具体的な取り組み・施策について例を挙げて解説します。
長時間労働の是正
長時間労働は、健康に悪影響を及ぼすだけでなく、生産性の低下や生活の質の低下を引き起こします。この問題を解決するための重要な施策の1つが、長時間労働の是正です。
具体的な施策としては、残業時間の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、月60時間を超える残業の割増賃金率の引き上げ(中小企業の場合)、勤務間インターバル制度の活用、フレックスタイム制の拡充などです。
上記施策を取り入れることにより、従業員の心身の健康を保ちながら、効率的に業務を遂行することが可能になります。
同一労働同一賃金の実行
2つ目に重要な施策が、労働者の賃金体系における「同一労働同一賃金」の実行です。
近年は雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的に、同じ業務内容であれば同額の賃金を与えるという考えが徐々に浸透しつつあります。
厚生労働省では「同一労働同一賃金」を以下のように定義しています。
“同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について、不合理な待遇格差を設けることが禁止されます。”
また、非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について事業主に説明を求めることができ、事業主は非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をすることが義務付けられました。
<参照>厚生労働省/「働き方特設サイト」同一労働同一賃金
多様で柔軟な働き方の実現
多様な働き方を実現するために、テレワークや時短勤務、フレックスタイム制度を導入する企業が増えています。
上記制度を導入することによって、従業員それぞれのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の実現が可能になります。
また、副業や兼業を認める企業も徐々に増えており、従業員のキャリアの幅を広げることができる環境が整備されつつあります。
これらの取り組みは、従業員の仕事に対するモチベーションをや生産性を向上させる効果もあります。
福利厚生で働く環境を改善
働き方改革の一環として、福利厚生を充実させることも重要な施策です。
福利厚生の充実は、従業員の満足度アップやモチベーションの向上に直結する取り組みの1つと言っても過言ではありません。
前述したテレワークや時短勤務、フレックスタイム制度も福利厚生の一環ですが、他には、健康診断やメンタルヘルスケアの充実を図ることで、従業員は自身の体調を管理でき、健康な状態で働くことができます。
また、社員食堂やスポーツ施設、リラクゼーションルームの設置も効果的です。仕事の合間にリフレッシュすることで、作業効率が向上し、結果的に生産性の向上にもつながります。
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まとめ
働き方改革は、働く人たちがそれぞれのライフスタイルに応じて、多様で柔軟に働ける社会の実現を目指しています。
今回は、働き方改革の概要や法改正内容、企業で実践できる具体的な施策例について解説しました。
企業が持続的な成長を支えるためには、従業員の多様で柔軟な働き方を尊重し、健康で働き続けられる環境を整えることが、働き方改革の実現のカギになるでしょう。